「大動脈解離」とはどんな病気?

大動脈解離とは、胸部や腹部の「大動脈」の内側の膜に穴が開いて、外側の膜との間に血流が入り込み、血管が裂ける病気です。
裂け目は大動脈の一カ所から始まり、急速に前後に広がっていくと考えられています。

大動脈が裂けると、膨らんだ裂け目が破裂して大出血を起こす場合や、大切な臓器(心臓、脳、脊髄、腎臓、肝臓、腸管、手足など)への血流が届かなくなる場合があり、直ちに生命が脅かされる状態となります。
「大動脈」は私たちの身体の真ん中にある、全身に血液を送る最も太い血管です。
心臓から上向きに出た後、弓状に左後方へ大きく曲がり、背骨の前面に沿って腹部方向に下っています。
※なお、大動脈解離が起きてそこが瘤(こぶ)状に膨らんだものは、「解離性大動脈瘤」と呼びます。

部位による分類

どこまで大動脈が裂けているかによって分類されます。
最も一般的な分類法であるStanford分類では、「上行大動脈に裂け目が及んだかどうか」に着目し、Stanford type A(上行大動脈に裂け目が及んでいる場合)では緊急手術を行う必要があります。
Stanford type B(上行大動脈に裂け目が及んでいない場合)では、内臓、脊髄、足などに血流が保たれているか否かが問題になります。
内臓などへの血流が保たれている場合では緊急手術は必要ありませんが、血流が保たれず臓器障害がある場合は緊急手術が必要になります。

Stanford type A(上行大動脈に裂け目が及んでいる場合)

症状・リスク

上行大動脈にまで大動脈解離が及んだ場合、解離腔の圧排によって冠動脈阻血による胸痛を生じたり、大動脈弁高度逆流、心嚢内液体貯留がおこるとショック状態となって血圧低下、意識レベル低下をきたし、急速に危険な状態に陥ってしまうことになります。
発症から急性期にかけて致死的となることが多く、放置すれば48時間以内に50%の方が死亡するといわれています。

治療方法

現状では上行大動脈についてはステントグラフト内挿術では治せないため、解離した大動脈を切除して人工血管に置き換える「人工血管置換術」しかありません。

人工血管置換術について詳しくはこちら

Stanford type B(上行大動脈に裂け目が及んでいない場合)

症状・リスク

激しい胸痛を伴うとともに、場合により様々な臓器障害に伴う症状(腸管虚血、腎不全、上下肢虚血、脊髄虚血など)を呈します。
破裂・臓器障害などの合併症の発症時には緊急手術を要しますが、まずは血圧を下げ、解離や合併症の進展が起こらないように集中治療管理が行われます。
また、将来大動脈の拡大が予想されたり、臓器灌流障害のリスクが高いとされる症例に対しては、早期にステントグラフト内挿術を行うことで、そのリスクを軽減できるとのデータを認めるようになり、大阪大学ではこのような症例に対しては積極的に早期治療介入を行っております。

治療方法

  1. 保存的治療
    血管の裂けた部位や発症後の時期などにより治療法は大きく異なりますが、裂け目が上行大動脈に波及せず足や内臓へ血液が問題なく流れている場合は、血圧や脈拍をおさえて安静にする、保存的治療を選択します。
    これにより裂け目がさらに広がらないようにします。
    ただし、その効果は限定的であるため、手術的治療をのちに要する場合があります。
  2. ステントグラフト内挿術
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  3. 人工血管置換術
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