「ステントグラフト内挿術」とはどんな治療?


ステントグラフト内挿術の手術イメージ

「ステントグラフト」とは、人工血管にバネ状の金属を取り付けた、比較的新しいタイプの人工血管です。
ステントグラフト治療ではこの人工血管を、カテーテル(血管内を通す細く柔らかい管)の中に小さく折りたたんで収納した状態で、治療部位まで運びます。
そして治療部位のところで(例えば動脈瘤があるところで)折りたたんでいたステントグラフトを拡げて装着することにより、血液の流れ方を適切にコントロールします。

胸部大動脈瘤へのステントグラフト内挿術(TEVAR)

胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術は、TEVAR(Thoracic Endovascular Aortic Repair)と呼ばれます。
足の付け根にある動脈からステントグラフトの付いたカテーテルを入れ、レントゲン装置(透視装置)で見ながら動脈瘤のあるところまで運びます。
治療部位にて、カテーテルに収納されていたステントグラフトを拡げ、動脈瘤へ血液が流れ込まないようにします。
これにより動脈瘤に圧がかからなくなるため、破裂を防ぐことができます。
人工血管置換術と比べて切開部を小さくすることができ、所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴です。

TEVARの治療後経過
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胸腹部大動脈瘤への開窓型/分枝型ステントグラフト内挿術

従来は、胸腹部大動脈瘤の手術は胸と腹部を大きく切開して行われることが多く、心臓血管外科の手術の中でも大きな侵襲がかかる治療法の一つでしたが、近年は、ステントグラフトで治すことが可能になっています。
それは、内臓につながる大切な血管を塞いでしまうというステントグラフト治療の弱点を克服すべく改良された、開窓型/分枝型のステントグラフトを用いる新しい治療方法です。
カテーテルのみで治すため、従来の人工血管置換術やハイブリッド手術よりもさらに身体への負担が少なくなります。

ただし、胸腹部大動脈瘤の治療で使用する開窓型/分枝型ステントグラフトは日本では未承認であり、今後の承認が待たれている状況です。
大阪大学では、外科治療で予想される身体への負担が大きく手術をうけるリスクが高い患者さん(ハイリスク患者)を対象に、これらの特殊ステントグラフトを用いた手術を臨床研究手術として行っております。

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腹部大動脈瘤へのステントグラフト内挿術(EVAR)

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術は、EVAR(Endovascular Aortic Repair)と呼ばれます。
足の付け根にある動脈からステントグラフトの付いたカテーテルを入れ、レントゲン装置(透視装置)で見ながら動脈瘤のあるところまで運びます。
治療部位にて、カテーテルに収納したステントグラフトを拡げ、動脈瘤へ血液が流れ込まないようにします。
これにより動脈瘤に圧がかからなくなるため、破裂を防ぐことができます。
人工血管置換術と比べて切開部をより小さくすることができ、所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴です。

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大動脈解離へのステントグラフト内挿術

解離がはじまっている場所(裂け目の入り口)を、ステントグラフトで血管の内側からカバーします。
その結果、裂け目への血流は少なくなり、裂け目の中は血栓で固まっていきます。
さらに、裂け目への血流が少なくなれば本来の血液の通り道(真腔)への血流が増え、手足や内臓への血液が行き届きやすくなります。

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外傷性大動脈損傷へのステントグラフト内挿術

足の付け根にある動脈からステントグラフトの付いたカテーテルを入れ、レントゲン装置(透視装置)で見ながら動脈瘤のあるところまで運びます。
治療部位にて、カテーテルに収納されていたステントグラフトを拡げ、動脈瘤へ血液が流れ込まないようにします。
これにより動脈瘤に圧がかからなくなるため、破裂を防ぐことができます。
人工血管置換術と比べて切開部を小さくすることができ、所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴です。

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ステントグラフト内挿術のリスク

  1. エンドリーク
    「エンドリーク」とは、大動脈の内側に入れたステントグラフトと大動脈壁の間に血液の漏れが起こることを言います。
    わずかなものも含めるとステントグラフト治療の3割程度で発生します。
    この問題に対して大阪大学では新しい治療法「EVAS」の臨床研究手術を実施しております。 EVASについて詳しくはこちら
  2. 血管損傷
    「血管損傷」とは、カテーテルやシースと呼ばれるステントグラフトを挿入していくための器材により、動脈が傷つくことです。動脈の解離や破裂が生じた場合には、追加の治療を必要とすることがあります。
  3. 血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)
    「血栓塞栓症」とは、血管の中にあるプラークが他の血管に飛んで行ってしまい、その血管を詰まらせることです。
    詰まった血管によっては脳梗塞、心筋梗塞、腸の壊死などが起こりえます。

リスクへの対処法

ステントグラフト内挿術のリスクに対して大阪大学では、治療法を改善したり、新たな治療法を海外からいち早く採り入れることで、積極的に対処をしています。
なおリスクの詳細は、患者さんの状態によってさまざまに異なるため、(緊急時を除き)充分な事前説明をさせていただきます。